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金正恩の命を狙う韓国の斬首部隊
朝鮮半島が北と南に分断されてから今年で65年。分断のきっかけとなった朝鮮戦争は、1950年に開戦したのち、2018年の現在でも戦闘状態にあります。
今はあくまで休戦している状態であり、2国間の戦争はまだ終わっていません。この休戦状態の間に、北朝鮮では支配者の世代交代が3回ありました。
金日成に始まり、金正日、そして現在の金正恩と、金家の子供たちに北朝鮮は世代を超えて支配されています。韓国が創設したと言われている部隊は、現在の北朝鮮最高指導者である金正恩を殺害、あるいは拉致する事を目的にしているとされています。
斬首部隊と呼ばれるその部隊は存在すると言われていたものの、2017年12月9日に韓国政府が正式に創設を発表しました。「斬首部隊」の正式な部隊名は「特殊作戦旅団」で、北朝鮮への圧力の1つとなっています。
実は斬首部隊の創設は初めてではない韓国
実は、韓国には北朝鮮の元首をターゲットとした特殊部隊が過去にも存在しました。その部隊が存在したのは1968年から1971年。
当時は軍事政権下であった韓国では、軍人であった朴正煕が大統領でした。韓国の前大統領朴槿恵の実父に当たる朴正煕は、北朝鮮による暗殺計画により襲撃を受けます。
しかし、襲撃は失敗。北朝鮮の暗殺部隊は、朴正煕にたどり着くことなく制圧されてしまいます。
自分を暗殺しようとした金日成に激怒した朴正煕は、報復のために金日成の暗殺部隊を秘密裏に創設します。
これが、最初の「斬首部隊」である684部隊です。創設された金日成の暗殺を目的にした斬首部隊は、民間人を訓練によって鍛え上げて創設されました。
しかし世界情勢の影響により作戦の決行が出来る様な状態ではありませんでした。さらに当時の韓国軍は隊員を民間人から募るときに、ウソの条件を提示していました。
また、出撃する事が事実上困難であるのに、幽閉された状態で厳しい訓練を課されていたため、訓練中に7名の死者を出しています。
その結果、劣悪な待遇が原因で斬首部隊の隊員は反乱を起こし、1971年に幽閉されていたシルミド島を脱出、直談判のため青瓦台へ向かいます。しかし、韓国軍と警察が鎮圧に当たったため戦闘となり、斬首部隊は20名が死亡、または自決しています。
斬首部隊で生き残ったのは4人でしたが、いずれも裁判により死刑が確定し1972年に処刑され、当時の斬首部隊であった684部隊31名は全員死亡し、斬首部隊は韓国から姿を消しました。
シルミド事件と言われるこの反乱は、韓国が軍事政権から民主政権に変わったあと、2003年に明らかになります。そして、韓国に北朝鮮の最高指導者を狙った暗殺部隊が過去に存在したことも明るみになりました。
軍事政権下の韓国の闇が表に出ることにとなりました。これが、韓国で最初に出来た「斬首部隊」の顛末です。
斬首部隊が作られたきっかけは、北朝鮮の地雷
斬首部隊が再び創設されるきっかけになったのは、2015年の北朝鮮と韓国の間にある非武装地帯に、北朝鮮軍が地雷を仕掛けていた事です。
本来あってはならない地雷を韓国軍兵士が踏んでしまい、身体が吹き飛ぶという重症を負いました。韓国と北朝鮮は戦争の再開寸前の所まで行きましたが、最終的に北朝鮮が謝罪することで決着。
しかし、韓国政府は考えます。「もし、戦争に突入したらどうなっていたか?」
すでに核武装をしていた北朝鮮との戦闘は、大きな損害と、沢山の命が失われたかもしれません。この事は、韓国にとって「斬首部隊」を再度、結成を理由にするには十分なものでした。
現在の斬首部隊の目的は?
2017年末に創設された「斬首部隊」こと「特殊作戦旅団」の目的はただ1つ。有事が発生しそうな時、先制して北朝鮮に侵入し、北朝鮮の核ミサイル発射権限を持つ者(金正恩)を探し出し、これを排除することのみです。
排除は決して殺害という意味だけではなく、拉致、拘束も含まれます。元々は2019年に創設される計画でしたが、昨今の北朝鮮による核ミサイル問題を受け、2年の前倒しがされました。
現在は実戦能力が完全に整っているわけではなく、すべての準備や装備が揃うのは2018年末とされています。ただし、北朝鮮情勢によっては、準備や装備の確保も前倒しされる可能性があります。
斬首部隊は、金正恩にどういう影響があるのか?
「韓国軍の精鋭部隊が、北朝鮮の最高指導者である金正恩の首を狙っている」という事はマスコミに向け韓国政府が発表したものです。
そのため、金正恩も斬首部隊の目的が自分の命である事を知っています。この事は金正恩にとって大きなストレスになっている様で、報道によればトイレにも行けない位の恐怖を感じているという報道があります。
北朝鮮軍も金正恩の守りはしっかり固めているのは確実です。しかし、国内の食糧事情が最悪の状態で、戦闘員の食事もままならない北朝鮮では、警護があっても万全とは言えないでしょう。
そんな状況下で、もし韓国軍の精鋭が自分の命を狙ってきたら、北朝鮮軍の精鋭は金正恩を守れるのか?金正恩本人にしか分からない事ですが、少なくとも彼にとっては大きな不安になっているようです。
つまり、斬首部隊が与える金正恩、ひいては北朝鮮への影響は、北朝鮮に戦争への道を進ませないようにしているという事です。
現在の斬首部隊の実力は?
斬首部隊は戦争を回避する目的で設立された部隊ですが、その実力は韓国メディアによればあまり良い物では無いようです。
まず、装備がまだ整っていないようで、このままだと斬首作成の成功はおろか、全滅するだろうというのが韓国メディアの見解になっています。
斬首部隊は特殊作戦を実行する部隊なので、装備も特殊なものが使用されますが、斬首部隊には通常の部隊が使用する装備と同じものが使われています。
任務の重要度を考えると、装備が適していないのは明らかで、これが韓国メディアのかなり辛辣な評価を招いているようです。韓国政府のなんらかの意図がある可能性も考えられますが、装備が揃っていないのはコストに問題があるようです。
韓国政府によれば、アメリカ軍の特殊部隊に準ずる装備を整えるという事ですが、現在の所その見通しは立っていません。
今後装備が充実する可能性もありますが、現在の所の装備による斬首部隊の実力評価は、「このまま作戦を開始したらみんな死ぬ」です。
斬首部隊の人数は1000人程度
軍隊の実力は装備だけではなく人数も実力の1つです。斬首部隊の人数はおよそ1000人と言われています。
斬首部隊の正式な部隊名である特殊作戦旅団の「旅団」は部隊の単位を指しますが、一般的には2000人から5000人程度なので、実際の規模は「連隊」と同等です。
ただ、人数が少ないかと言うと必ずしもそうとは言えません。作戦が開始されれば迅速に金正恩を探し出して排除しなければならないのですが、表立った戦闘をすれば、金正恩を逃がす可能性が出てきます。
しかし、金正恩の居場所を探すにはある程度の人数も必要になるので、1000人という数は妥当なものとも言えます。
斬首部隊が動く可能性はあるのか?
斬首部隊が金正恩の排除に向けて作戦を行うかは、北朝鮮の動向次第です。朝鮮戦争の再開が濃厚になれば、先制して活動する可能性は十分にあります。
ただ、斬首部隊は装備の問題で人員の輸送が現段階ではできません。また、作戦に耐えうる装備も無い状態なので、存在はしていますが出撃できる状態ではないようです。
また、2017年9月に北朝鮮のハッカーが斬首部隊の情報を含んだ韓国軍のデータを盗んだ可能性もあり、北朝鮮には内情が筒抜けになっている可能性もあります。
作戦を実行する可能性は、部隊がある以上ゼロではありません。しかし、1968年にあった以前の斬首部隊のように、出撃させようにもできない状態になる可能性もあります。
1968年当時は世界情勢が影響しましたが、今回の斬首部隊は韓国の財政面が影響して出撃が出来ない可能性も考えられるので、先行きは不透明です。
今後、韓国政府がどう対応するのかは不明ですが、現状のままでは斬首部隊が作戦を開始する可能性は低いと言えるでしょう。
ただ、少なくとも現在の斬首部隊が、待遇面の不満を理由にクーデターを起こすことは考えられないので、1971年に起きたような出来事はまず起こりません。
第2の斬首部隊が今後どうなるかは、予想は出来ますがはっきりと断言できる状態にないので、状況を見守る事しが出来ません。
お隣の国の出来事ではありますが、日本にも大きな影響を及ぼすと思われる朝鮮半島情勢は、まだしばらくの間はくすぶり続けるでしょう。